月刊メイジン Vol.2 餌特集

「餌」そこには無限の可能性がある!

お肉屋さんに行くと、牛肉・豚肉・鶏肉といろんなお肉が揃っています。その中でも一際目を引くのは、淡い朱色と白色の美しいマーブリングのお肉。そう!それこそが黒毛和牛肉の最大の特徴です。
さて、そんなお肉ができるまで、ウシさんたちはいったいどんな餌を食べているのでしょう?麦?とうもろこし?ふすま?・・・・それだけではありません。そこには私たちがまだ知らないとんでもない技術の結晶が詰まっているんです!

 

 

今回は「餌」についてのお話です。
さて、「餌とは何ですか?」と聞かれた時にあなたは何と答えるでしょうか?我々人間が食べるものを指さして「これは餌だ!」と言う人も少ないと思うので、やはり「動物が食べるもの」という答えが一般的かと思います。
餌は「飼料」と呼ばれることもあります。これは家畜など事業対象の動物が食べる餌のことです。家畜はそれぞれ適切な飼料を数か月ないし数年は継続して食べます。よって安全な飼料が飼料としての最低条件になるわけです。「飼料安全法」という法律によっても様々なルールが定められています。例を挙げると、動物性たんぱく質・油脂の混入した飼料を反芻家畜に与えてはいけないというものがあります。「A飼料」という言葉を聴いたことがある人もいるでしょう。このルールに違反すると、懲役や罰金が科せられます。「それって厳しすぎじゃない?」と感じる方もいるかもしれませんが、そんな人たちは、数年前に日本でも発見されたBSEを思い出してみてください。当時は前述した一項が定まっておらず、牛が牛を食べるという倫理的にも疑問符なことが当たり前のように行われていました。その善し悪しをこの場で議論しても仕方がありませんが、その結果がBSEのような経済的に非常にダメージの大きい病気を生み出したのです。
現在は、飼料メーカーがこのルールにのっとり、安心・安全な餌を提供してくれます。牛たちも大好きな餌を安心してたくさん食べることができるようになりました。

さて、飼料を別の角度から見てみると、対象家畜によっての分類だけではなく、その栄養価や成分、加工法などによって様々な分類方法があります。ここでは和牛を対象に話を進めようと思うので、粗飼料と濃厚飼料、そして、その他の飼料に分けて話を展開していきましょう。
反芻家畜にとって粗飼料はなくてはならない非常に大切な飼料です。牛たちはもともと草食動物なため、本来ならば粗飼料だけで生きていけるのです。しかしその牛たちのお肉を霜降り肉にしようとするならば、話は変わってきます。
牛の品種の中でも「黒毛和種」という品種は筋肉の繊維の隙間に脂肪が入りやすい世界最高の品種です。出来上がったお肉は、赤身と脂身の絶妙なハーモニーと言ったところでしょうか。
そんな美味しいお肉を作るためには、粗飼料だけではなく、穀物由来の飼料(濃厚飼料)が必要不可欠です。
濃厚飼料は栄養価が高く、肥育牛にとってはメインになる餌です。時期や性別にもよりますが、去勢牛だと一日あたり10㎏をペロリと食べる牛もいたりします。
そんな牛たちを10頭、20頭・・・もしくは100頭規模で飼養していると、それだけの手間と餌代がかかります。数千頭規模であれば腰を抜かす程の餌代になるでしょう。「濃厚飼料はあまり食べないで欲しい、けれど美味しいお肉は作りたい」というなんとも自分勝手なジレンマに陥るわけです。そこで、どの飼料メーカーも他社に負けないよう1円、2円の差を巡ってしのぎを削っているのです。
例えば1㎏あたり1円の差のある餌があったとします。肥育牛は出荷されるまでに、約5tのえさを食べると言われています。そうすると、1頭あたりで5千円の差が生まれます。それが100頭、1000頭規模であればより大きな差が出るため、農家さんにとっても餌の単価にこだわることは必須なわけです。
「だったらすごく安い餌をあげればいいじゃん」と思うのも仕方がありません。できるだけコストを抑えた経営は至極当然のことです。

 餌の種類と特徴

粗飼料

繊維分が多く、主に草飼料を指す。反芻動物には必要不可欠な飼料。

濃厚飼料

主に穀類を原料とした密度と栄養価の高い飼料。牛は大好き。

その他飼料

ビタミンやミネラル補給など少量で特定の効果をもつ飼料。

 

今現在、枝肉がセリにかけられる際に単価に反映する基準は様々あります。その中でも特に重要視されるのが地域ブランドやサシ(交雑脂肪)でしょう。前者はまた別の機会に触れるとして、後者は黒毛和種の改良上、最も重要視されてきた指標になります。2012年8月現在で、5等級と4等級では枝肉1㎏あたり200円から300円、場合によってはそれ以上の差があります。したがってサシが入るように、牛たちには沢山餌を食べさせて、育てるのが一般的です。
時折セリ場にいると、非常に高値をつける枝肉を目にすることがあります。これはもちろん個人の営業努力の結果もあるでしょう。また、お肉屋さんが「このお肉だったら間違いない」と分かっているからこそ高値で競り落とされる枝肉もあります。卸先から「あの時のあの肉は旨かった」なんていう話があれば、そのブランドやその生産者の枝肉を再び買い求めてくれることがあります。お肉屋さんの加工経験豊富な方から「どこどこの○○牛は加工している間にも脂がどんどんとろけて、身も非常にキメが細かくて旨そうだった」という話を聞いたことがあります。
このように、お肉屋さんに一度良い印象を持ってもらえれば、継続した出荷や営業努力で周りと同じブランド牛でも自分だけは100円、200円上回る高値を付ける可能性もあるのです。つまり大切なことは、美味しいお肉を作るということです。
お肉の美味しさ。これは今、畜産関係者が一番注目している話題の一つでしょう。それは、その牛の血統や飼養環境、最終的にはお皿に並ぶ時のお肉のカットの厚さでも変わってきます。もちろん食べる消費者側の個人差もあるでしょう。
そんな要因の中で、最も生産者が取り組みやすく、お肉に直接反映されやすいのは「餌」に対するこだわりです。
濃厚飼料は様々な原料を配合して製造されています。品質の高い原料にミネラルやビタミン類など牛に必要な栄養素が入っている餌もあります。ビタミンCなんかは最近の注目株の一つです。また、お肉の旨味成分の一つと言われる「オレイン酸」を増やす目的で、糠や粕類なども注目されています。
生の糠や粕類は水分含量が高いために、腐敗等が懸念されてきた原料でした。また、一部の粕類は通年確保し難いというデメリットもあります。しかし近年の技術により、夏場のような暑熱環境であっても品質の変わらない副産物配合飼料の製造が可能になりました。現在ではそのようなこだわりの飼料も販売されています。
では、そんな濃厚飼料に併せてどのような粗飼料を選べば良いのでしょう?

 

良質な餌は牛も喜び旨い肉を生む!

 

粗飼料は牛の消化のはたらきにより主に酢酸に変えられます。その酢酸は、サシの素となる脂肪前駆細胞を増やすことで知られています。酢酸はその他、反芻獣の体内で最も利用される脂肪酸です。したがって、良質な粗飼料を選択することによって、牛の喰い込みも向上し、濃厚飼料との相乗効果が期待できます。
注意しなければならないのは、まれに、地場産の稲わらを粗飼料として使う場合に、ビタミンAが多く含まれていることがあります。ビタミンAの効果はみなさんがご存じの通りですが、これは見た目ではなかなか判別が難しいので、少しでも稲ワラが青かったりする場合は近くの農協や飼料メーカーに相談してみると良いかもしれません。
「枝肉成績が最近伸び悩んでいる・・・」といった場合にも、まず使っている粗飼料の品質をチェックしてみましょう。

和牛の飼料には、粗飼料、濃厚飼料の他に、ある特定の効果を目的に給与する添加剤や補助飼料などがあります。サトウキビバガスやビタミンC、亜鉛などのミネラル剤は本会の直営牧場や関係農家さんなどで実証済みのため、それぞれの用途に合わせて使って頂ければと思います。
「添加剤や補助飼料の効果はわかっているけど、なかなかそこまで手間がかけられない」という方には、濃厚飼料の製造過程、もしくは運送の時点で混ぜ込んでしまうという方法もあります。飼料メーカーさんや運送屋さんと相談してみると良いでしょう。
このように、飼料には様々な用途と種類があり、それを選択することが生産者の方には求められます。どの飼料においても一長一短があり、飼料メーカーさんの技術とこだわりがあります。長年の付き合いで一つの飼料を使い続けている方も多いでしょう。
「お肉は美味しさなんだよね、うん、わかってはいるんだけど・・・」という方は、まず巡回で回って来てくれる専門の方や農協、そして飼料メーカーに相談してみましょう。きっとあなたの牧場に合った飼料が見つかるはずです。

 

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次回の「月刊メイジン」もどうぞお楽しみに!!